うれし泣きを知った日⑦(親友の病)

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この話は30代主婦の私(オカクミ)がダウン症の長男を出産し「もう一生幸せになれない」と絶望したものの、いろんな人に支えられる中で希望を見出していく思い出ばなしです。

⬇︎過去の話はこちら

①もう一生、幸せになれない。

②苦しい胸の内

③君への手紙。

④キセキの存在

⑤親孝行だったあの子

⑥出生前診断への想いの変化

⑦親友の病

⑧不安を乗り越えて

⑨やっと…。

⑩私はもう、大丈夫

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ねぇ。出生前診断、どうしよう…?

私はもう受けたくないんだけど

オカクミ

うーーーーーん。

夫は目をつむって考えていた。

NIPT(新型出生前診断)は13、18、21トリソミーしか分からないし、市内では今のところ長男のかかりつけの大きな病院でしか検査できないんだって。(2019年当時)

今の産院は羊水検査ならしてるらしいけど、羊水検査は失敗したら破水するリスクもあるらしい。あと、ほぼ全ての染色体異常が分かるんだってさ。

…ってことは、カナコがかかった病気になるかどうかも分かるってことじゃない?

オカクミ

カナコちゃん?
うん。カナコの、滑膜(かつまく)肉腫って病気。

もし、滑膜肉腫が生まれる前に分かっても私には答えがだせない。

オカクミ


カナコと出会ったのは大学1年のとき。英語の授業で席が前後だったのをきっかけに話すようになった。

カナコは一見、ツンとして近寄りがたくみえるが、明朗快活で、犬のようにひと懐っこいヤツだった。

ある日、スタバのソファに座って抹茶フラペチーノを飲みながら

私、小田和正の「19の頃」が好きなんだよね(笑)

オカクミ

と打ちあけた。するとカナコは絶叫した。

カナコ

わたしもーーーっ!!!!

まさか私以外の10代小田和正を好きな人がいるなんて思わなかった。(※年齢は当時)

しかもおなじ曲!私たちは握手をしてよろこびあった。

ニッチな共通点が私たちを親しくさせ、数えきれないほどの楽しい思い出をつくり大学を卒業した。

カナコの病気を知ったのは、長男が生まれた3ヶ月後の正月。カナコからの年賀状を見たときだった。

先月から病気で休職しています。今のところ3月には復帰する予定。

必ず治して、クミの赤ちゃんに会いに行きます!

文面からタダごとではないように思い、すぐにメールした。

カナコー!!
病気で休職って、大丈夫?!

オカクミ

カナコ

大丈夫よ!(笑)

滑膜肉腫って腫瘍が見つかったんよ!

手術したら治るから!

滑膜…肉腫?

オカクミ

はじめて聞く病気だ。ネットで調べてみる。

悪性軟部腫瘍に於いては発生頻度の比較的低い腫瘍である。

(中略)

予後は報告例により異なるが、5年生存率30 – 50%である。

Wikipedia

えっ…?悪性…?!

しかも5年生存率が低すぎじゃない?!

5年後にはカナコがいないかも、ってこと?!

オカクミ

滑膜肉腫を調べると次のことが分かった。(2018年当時)

  • 10万人に1~2人の割合で発症すること
  • 滑膜肉腫は染色体に由来する(染色体異常が引き起こす)病気であること。
  • 染色体に由来する病気のため、今現在根本的な治療法がないこと。(対処していくしかない)
  • 予後が悪い。

長男のダウン症すらまだ受け入れられていない時期。親友までもがこんなことになるなんて。カミサマが見える姿でいたとしたら1発ハタきたい。「カミサマ出てこい!」と叫びたくなった。

カナコはどんな気持ちでいるのだろうか。落ち込んでいるに違いない。いてもたってもいられず、私は電話した。

だが、電話の向こうのカナコの声はいつもと変わらなかった。

カナコ

私も最初ビックリしてネットでいろいろ検索したけど、ロクなことしか書かれてないから検索するのやめた!(笑)

今は医学も進んでるし、

私は先生(医師)を信じてる。

ークミも、あんまり心配せんで!(笑)

励ますつもりで電話をかけたのに、逆に励まされてしまった。

10万人に1人が発症するという病気にかかってしまったカナコが、こんなにもポジティブ。私は1000分の1の確率でダウン症の子を産んで絶望しているというのに。自分が恥ずかしくなった。

私は、自分の人生を恨むのをやめた。

約1ヶ月後ー

カナコのの手術は無事に終わった。

あれから3年。

今のところ再発もなく、カナコは元気だ。

これから先、5年10年20年。

おばあちゃんになっても、一緒にお茶したり旅行したりできると私は信じている。


もし万が一、羊水検査で病気になるたぐいの染色体異常が見つかっても、私には答えが出せない。せっかく授かったし、もうこれ以上考えたくない。

オカクミ

うん、羊水検査…受けなくてもいいんじゃない!

こうして私たち夫婦は出生前診断を受けないことにした。

出産まで、祈るような日々を送ることになるのだが…

つづく。

 

滑膜肉腫について補足説明

本文で滑膜肉腫について「染色体由来の病気」と書きました。

どのような染色体が滑膜肉腫を引き起こしてしまうのか知りたい方へ簡単に説明します。専門家ではないので参考程度でとらえて頂けると幸いです^^

そもそも染色体とは、ヒトの細胞の中にある遺伝子情報がつまったモノをいいます。

ヒトの染色体には性染色体常染色体の2種類があります。

性染色体は男性ならXY、女性ならXX

常染色体は1番〜22番まであり、それぞれ2本ずつの計44本。性染色体と常染色体をあわせると合計46本、ヒトは染色体を持っています。

その上で、染色体異常には主に次のものがあげられます。

  • 染色体が46本より多いor少ない(例:ダウン症。21番目の染色体が1本多い。)
  • 染色体の一部が欠けている
  • 染色体同士の一部がいれ替わっている(→転座

滑膜肉腫は上であげた3番目に該当します。性染色体「X」の一部と18番目の染色体の一部が入れかわっているために引き起こされる病気、というわけです。

滑膜肉腫の9割以上において、X染色体と第18染色体の転座によるSS18-SSX融合遺伝子の形成が認められていますが、腫瘍発症の機構については未だ解明されてはいません

引用:岡山大学

 

みなさんの参考になれば幸いです。

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