うれし泣きを知った日【完】(30代女子の青春)

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この話は30代主婦の私(オカクミ)がダウン症の長男を出産し「もう一生幸せになれない」と絶望したものの、いろんな人に支えられる中で希望を見出していく思い出ばなしです。

⬇︎過去の話はこちら

①もう一生、幸せになれない。

②苦しい胸の内

③君への手紙。

④キセキの存在

⑤親孝行だったあの子

⑥出生前診断への想いの変化

⑦親友の病

⑧不安を乗り越えて

⑨やっと…。

⑩私はもう、大丈夫

ホーム

ミチルさんに

お別れのあいさつぐらいしたかったなぁ〜!

オカクミ

退院する日の朝。

ナースステーションに2回行くも、タイミングが合わなかったのだろう。

ミチルさんとは会えずじまいだった

まぁ…

連絡先も知ってるし、また会えるよね!

オカクミ

ナースステーションから部屋へ戻る。

3月のあたたかな日差しが窓から差し込み、部屋いっぱいに充ちている。

今日から家族4人か

どんな生活になるかな〜!

オカクミ

 

迎えが来るまであと1時間半。

夫が買ってきてくれた、モンカフェのマイルドブレンドにお湯を注ぐ。

コーヒーのやわらかな香りが、ゆっくりと広がっていく。

マグカップをテーブルに置くと、1枚の紙が目にとまった。

 

ーアンケートだ。

そうだ!

アンケートにミチルさんたちへお礼を書こう!

「病院へのご意見欄」なら見てくれるよね!

オカクミ

ほかの助産師さんたちもまた、ずっと気にかけてくれていたのが端々から感じとれる入院生活だった。

ぜひ助産師のみなさんに感謝のきもちを伝えたい。

ペンを取り、アンケートを書き始める。

名前:オカ クミ

妊娠中は不安で仕方ありませんでしたが、おかげさまで無事に出産することができました。

ー受け入れられないですよ。

ー友だちになりましょう!

ーついに、この日が。

ずっと

…手が震えてくる。

すこし乱れた字体だ。

ずっと見守ってくれて ありがとうございました。

 

ーミチルさん。

ミチルさんが寄り添ってくれたから、

私がとっても人に恵まれていることに気付けたよ。

療育センターの先生たちや、

不安な気持ちをLINEでずっと聞いてくれた友だち。

こんなにも私は

支えられ、励まされ、今日を生きているんだ。

 

目頭が熱くなっていく。

生まれてはじめての、うれし涙だった

私のことを、

こんなに支えてくれる人たちがいる…!

なんて幸せなんだろう!

オカクミ

感極まって泣いている、その時だ。

トン、トン。

ドアのノック音が聞こえる。

あれっ?もう夫が来たかな⁈

はーい?

オカクミ

ドア

桃川でーす!

 

 

ミチルさん?!

 

私はアンケートを裏返し、あわてて涙をぬぐい、ドアまで走る。

恐るおそるドアを開けると、ミチルさんが笑顔で立っていた。

ミチル

ヤッホー!

…?

ミチルさんは目に涙をためた私を見ると、すぐに心配そうな表情になった。

いやぁ〜!

ははは〜!!

昨日の夜は大変でしたねー!!

誰ですかアレは?!

オカクミ

昨夜の医者をアレ呼ばわりしながら取りつくろい、部屋にまねいた。

ミチルさんがイスに座り、笑って言う。

ミチル

たまにねー、

あぁやって大学病院の先生がきて、

ありがたぁ〜いお話を聞かせてくれたりするんですよー(笑)

他愛のないおしゃべり。

あの日の夜と違って、今日はいつもの明るい私だ。

旦那さんとは休日いっしょに過ごせてます?

オカクミ

ミチル

休みが合ったら一緒に散歩していますねー!

この前うちから東町商店街まで歩いて行ったんですよー!

食べ歩きとかしながら(笑)

それとかー、

公園で、まつぼっくりを蹴ったりするゲームなんかしてますね(笑)

平和ですね!(笑)

オカクミ

ミチルさんに、聞きたかった。

後田ユウコ(共通の友人)に、またミチルさんに取り上げてもらったよって話したら、

2人ともミチルちゃんってすごいね(笑)」

って言ってましたよ!

ホント、すごい偶然ですよね!?(笑)

オカクミ

ミチルさんはキョトンとしたあと、目線をそらしてへへへ〜と笑っていた。

ミチルさんの表情から、

もしかしたら私の担当に名乗り出てくれたのかもしれない、と思った。

 

子どもに何もないと、

こんなにも平和な入院生活が送れるんですね〜!

今回初めて、長男を出産したときの自分を客観的に見れたというか…

自分で言うのもあれですが、よく乗り越えたなぁと思います。

初めて、自分で自分をほめたいと思いましたよ!

はっはっはー!(笑)

オカクミ

ミチル

いやぁ、オカさん本当に大変でしたよ!

よく頑張られたなぁと思います。

ミチルさんのおかげですよ!

本当に!!

オカクミ

ミチル

いやー、私はなにもしてないですよー!!

スマホ

ピュ〜ウっ!

スマホが鳴る。

夫からだ。

ミチル

あっ、じゃあ私、そろそろ行きますね!

ミチルさんがイスから立ち上がる。

私も立ち上がってミチルさんの前まで歩み寄り、向かい合った。

ミチルさんをまっすぐ見すえ、手をさし出す。今度は自分から握手を求めたのだ。

ミチルさんが応じる。

(今まで見守ってくれて)

ありがとうございました!

(もう、大丈夫だよ)

オカクミ

ミチル

こちらこそ、本当にありがとうございました!

ミチルさんも真剣な顔つきで、何度も何度もお辞儀をしていた。

ミチル

ちょっと、私を見送って!

ミチルさんは私の腕をつかむと、ドアまで引っぱっていった。

私はヘラヘラと笑いながら、精一杯取りつくろう。

いやぁ〜!

寂しくなりますね〜!(笑)

またうちに遊びに来てくださいね!(笑)

オカクミ

ドアを開け、ろう下に出る。

お互いに何度も「ありがとう」と言い合った。

ガラス張りのろう下は陽ざしが降りそそぎ、輝いている。

うっわー!まぶしい!

ハイビームみたい!

オカクミ

サヨナラの涙を流すまい、とふざけてしまう。

ミチルさんはあはは!と笑いながら、職員用の非常階段へ歩いていく。

階段の入り口の前で立ち止まると、こちらに振り返ってなにかを言っている。

笑顔を維持するので精一杯で、聞き取れなかった。

ミチル

じゃあまたー!
また会いましょう!

オカクミ

姿が見えなくなるまで、お互いに手をふり続けていた。

 

おわり。

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